私の師匠は、雛祭りの茶事に毎年、釣り釜と徒然棚を準備して下さいます。茶事といっても仕事帰りのお稽古日なので、炭手前をして点心を頂いて濃茶、薄茶の順で皆で交代して点前をします。師匠はお稽古場を閉めてしまったので、今は自分で師匠がしてくださったように準備します。

徒然棚は、淡々斎のお好みで、菱形になっています。上部に袋棚があり2枚の戸には磯馴松(そなれまつ)の絵が描かれています。中には棗が入っており、棗を取り出したり仕舞うときの戸の開け方がポイントです。一手間かかりますがちょっと優美に感じます。

3月は、炉中の五徳を上げて釣り釜を釣ります。ゆらゆら揺れる様は春の風情を表します。雲龍釜は、茶巾を乗せるときつまみの掻き立て鐶を倒す約束があります。茶碗に茶巾を戻すときうっかりこの鐶を戻し忘れがちで、釜に蓋をするとき「あらっ」となります。ここもポイントです。雲龍釜は細身で湯の量も普段の炉釜より少なくすみますが、炭も細いものを選ばないと、湯加減が難しい。師匠は、本数を減らしたり風炉炭を使っていました。

雛祭りの茶事はちらし寿司が定番。師匠の所で準備する時、桜でんぶの作り方を習いました。鯛や鱈の身を焼いてほぐして晒の袋の中に入れて洗い揉みほぐし、鍋に移して色と味付けをします。桜でんぶが手作り出来る事に驚いたのは、二十代の頃の懐かしい思い出です。